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薄闇の中浮かび上がるその髪色は銀。肩に引っ掛けただけの羽織が、男の動きに合わせて揺れる。

ジャラリと音を立てた槍は、碇の様で。

「奇妙な得物だな」

政宗は左目を鋭く細めて続けて言った。

「まぁ、山賊だろうがなかろうがどっちでも良い。俺達は今気が立ってんだ。斬られたくなきゃ大人しくそこを退きな」

「けっ、そりゃこっちの台詞だぜ。どこの誰だか知らねぇが、肩慣らしと行くぜ野郎共!」

「「アニキー!!」」

ブンと男がバカでかい得物、碇槍を振り回し、それを合図に伊達軍を囲んでいた一団が呼応して動き出した。

手に手に刀を持ち、襲い掛かる。

「ha、上等。前哨戦には調度良い。小十郎、皆は任せたぞ」

「はっ。…てめぇら、返り討ちにしてやれ!」

「「Yeah―!!」」

伊達軍も刀を抜き、振り下ろされた刀に応戦した。

そして、その中央で政宗が一団の頭と思われる男と睨み合う。
ジリジリと間合いを詰め、どちらともなく攻撃を仕掛けた。

「うぉらぁっ!」

「ha――っ!!」

ガキィンと碇槍と刀がぶつかる。二度、三度、と刃を交え、互いの力量を図った後二人は視線を絡め、口端を吊り上げた。

「ただの山賊かと思ったら、中々やるじゃねぇか」

「おめぇさんもなぁ」

よくよく見れば男は政宗とは逆の目に眼帯を付けている。

「名は?」

「俺ぁ…」

政宗の問い掛けに男が気分良く応えようとした時、それを遮るように一陣の風と季節外れの桜が二人の間を横切った。

「ちょぃと待ったー!何やってんだい元親!ソイツは敵じゃない!むしろ…」

突然乱入してきた男に、気分を害した政宗は剣呑な眼差しを向ける。

「誰だてめぇは。ここは大道芸人が来るような場所じゃねぇぜ」

政宗が大道芸人と称したのも無理は無かった。二人の間に割って入ったその男の風体は、頭に羽飾り、派手な衣装に、肩には子猿。

背に超刀を背負っている様だが、その姿は戦場には不似合で。男から感じる雰囲気もまた戦場に立つ者とはどこか違っていた。

「政宗様」

「ah?どうした小十郎」

男の乱入で気を削がれた兵達も動きを止め、三人の成り行きを大人しく見守っている。

小十郎も手にしていた刀を下ろすと、政宗の側に寄り、今しがた気付いたことを口にした。

「もしやそこの銀の髪の男、西海の鬼、長曾我部 元親かも知れませぬ。それと、その派手な身形をした男、前田家の風来坊では?」

「hum…」

政宗達そっちのけで言い合いをしている慶次と元親を見定めるように政宗は眺め、ふっと息を吐くと刀を鞘に納める。

「Hey、そこのお二人さんよ。用がねぇなら通させてもらうぜ。無駄にアンタ等に構ってる暇はねぇ」

今にも去りそうな気配を見せた政宗に慌てたのは慶次だった。

「待ってくれ独眼竜!この作戦にはアンタの力が必要なんだ」

真っ直ぐ自分に向けられた慶次の言葉に、政宗は謙信から受け取った文の内容を思い出す。

前田の風来坊が瀬戸内に向かった。伊達、武田、上杉の東国と毛利、長曾我部の西国で同盟を成し、織田を包囲させるつもりでいるとも記されていた。

しかし、

「It is already late.…アンタの作戦は今や机上の空論だ」(もう遅い)

上杉も武田もろくに動けねぇ。東の防衛で手一杯だ。

「っ、そりゃどういう意味だ独眼竜?」

「上杉も武田も豊臣の奇襲で重傷、織田とやりあう以前の問題だ」

豊臣と聞いて慶次の顔色が変わる。

「おいおい、てぇことは何だ?あの岸辺にいたのは豊臣の奴等だったってぇのか」

そこへ、ドスリと武器を地面に突き立て、休戦の意を示した元親が考える様に溢す。

「ah?そういや西海の鬼が何でこんなとこに居やがる?アンタの縄張りは四国のはずだろ?」

織田を攻めるにしろ、ここにいること事態おかしい。山賊と間違われても仕方ねぇじゃねぇか。

政宗のもっともな疑問に、元親はそれがよ、と素直に応えた。

「俺達ぁ、風来坊の話に乗って東から来る武将と挟み撃ちになるよう合わせて海へ出た。まぁ、波も穏やかで出航は順調だったんだが…」

いざ陸地に船を寄せようとした所で、陸に並んだどこぞの軍かわからねぇ奴等に弓矢や鉛玉の嵐を受けてなぁ。さすがに民の住む場に砲弾を撃ち込むわけにゃいかねぇってんで、手下共に船任して、俺達は迂回して陸に上がったんだ。



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